下廃水における生物学的脱窒素プロセスは、水域の富栄養化防止に有効な水処理技術として注目されている。本研究はこのプロセス内に安定して硝化反応を行う微生物を保持する上で必要とされる微生物の存在状態と動態を把握するために遺伝子工学的研究手法を適用する新たな方法論を開発することを目的とした。その結果、従属栄養硝化細菌であるArthrobacter globiformisとモデル浄化槽から分離した細菌の16SリボソームRNA(16SrRNA)の特異的な塩基配列部分を決定できた。また、菌体量の少ない亜硝酸酸化細菌ではPCR法を適用することにより、塩基配列の決定の可能性を明かにした。 一方、上水道における生物処理は、アンモニア性窒素を除去することが主たる目的になっている。この際、同時にかび臭物質も除去される現象が認められる。実験ではArthrobacter globiformisを用いてかび臭物質の1つ2-Methylisoborneol(2-MIB)の除去能の有無を判定した。その結果、Arthrobacter globiformis単菌にはかび臭分解能がないことが判明し、他の硝化菌もしくは生物処理槽内の微生物混合系で除去が行われていると推測された。そこで、硝化菌に限定せず、同様に生物処理槽内に多数存在するPseudomonas属、Flavobacterium属を用いてかび臭の分解を検討した。その結果、両菌株はかび臭分解能を有し、かつ同じ塩基配列を持つプラスミドが確認された。また、同じ塩基配列はサザンハイブリダイゼーションにより染色体上にもコードされていることが知れた。さらに、2-MIBは化学的立体構造がカンファーに類似していることからカンファーを分解するcamオペロンを作用させて分解機構を探索し、高かび臭分解能発現プラスミドの構築を図った。 なお、前年度、菌株の特異的塩基配列部分を検索するために用いた16SrRNAは、かび臭産生微生物の系統発生的分類に効力を発揮した。
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