研究概要 |
ミキサーと温度調整装置を設けたプラスチック製反応槽に中空糸膜モジュールを組合わせ、反応槽内懸濁液を循環させた.消化温度を35℃とし,膜透過液は1日1回所定の量をチューブポンプで吸引して得た.吸引採取後に基質として実際の下水汚泥の所定量を投与した.従来より反応槽を大きくしたので反応が安定し,物質収支の誤差も小さくなった.中空糸膜が劣化するのを防止するために,透過水を得る時のみ膜モジュール内を反応液が通るように改造した.このシステムを3組製作し,消化の状態が安定してから,各種の実験に供した.平常時では,基質投与後の揮発性有機酸(VFA)濃度は一旦増加し,酢酸の他にプロピオン酸がわずかに検出されるが,ほぼ12時間で定常状態に戻る.投与量を約1.5倍にすると,各種のVFAが検出されるようになり,平常時に戻るのに3日を要した.汚泥中の固形物のみを過剰に投与すると,数時間遅れてVFA濃度が増え,同時にガス発生速度も増加した.下水汚泥に各種の有機酸を添加して投与し,VFA濃度とガス発生量を追跡した.また,VFA単独,およびアルコール単独投与試験も行った.過剰に酢酸を投与すると,プロピオン酸以上の分子量のVFAが現れ,酢酸濃度が低下すると消減する.プロピオン酸過剰投与では,酢酸濃度が上昇し,プロピオン酸がより早く減衰する.エチルアルコールを単独で過剰投与すると,酢酸の濃度が徐々に増加し,18時間後にピークに達する.プロピオン酸の同様の傾向を示した.固形物の加水分解速度はかなり遅い.酸発酵で生成する低分子量有機物の反応経路による競合反応について一応の知見が得られた.今後は,これらの実験をより定量的に実施し,下水汚泥メタン発酵の機構を解明する.
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