消化温度35℃、容量20Lの膜分離生物反応槽3基を使用し、下水汚泥を基質とした膜分離嫌気性消化の長期連続実験を継続した。汚泥の投与は1日1回である。投与した汚泥量とサンプリング量を考慮した物質収支より、有機物と無機物ともに消失する従来の知見を再確認した。基質投与後の有機酸濃度とガス発生量の経時変化を追跡した。基質を酢酸等の純物質とした場合の反応速度は1次反応で近似できた。加水分解が律速であるとし、有機酸の反応速度を1次反応であるとしたモデルを構築し、逆解析して加水分解速度を求めたところ、同じく1次反応で近似できた。生汚泥投与後、加水分解の進行とともに有機酸濃度で上昇し、その後減衰する。有機酸濃度が小さくなってからガス発生速度が大きくなる現象がしばしば観測されており、有機酸による阻害が関与している可能性がある。本モデルはまだ不完全なので、改良しなければならない。本年度より、酸化還元電位の経時変化も観測しているが、定量的な関係はまだ得られていない。反応槽内に有機物が蓄積しない理由は、消化汚泥が自己分解したときに基質として利用されるためと考えられる。そこで、消化汚泥を加熱殺菌により不活性化して投与したところ、生汚泥の匹敵する有機酸の発現とガスの発生が観測された。オートクレーブによる高温殺菌を行った方がガス発生は良好であり、低温長時間殺菌では殺菌率が悪くガス発生量が少なかった。投与VSS当たりのガス発生量は、生汚泥が0.54L/VSSg、高温殺菌汚泥0.4L/VSSg、および低温殺菌では0.03L/VSSgであった。本実験により、消化汚泥がメタン発酵の基質として利用できることが明らかになり、下水汚泥を効率よく完全消化する処理法の端緒が得られる。
|