昨年度実施されたステンレス鋼梁降伏型架構の振動実験結果に、振動系を1質点系に置換したシステム同定手法を適用して、模型架構の初期水平剛性や復元力特性などについて調べた。システム同定において、質点系の減衰特性は、筆者らの既往の研究結果に基づいて、模型骨組に実地震波を入力する前に正弦波による共振実験を行って得られた減衰定数に基づいて定めた。実地震波を入力して得られた加速度応答記録をフィルタリング処理しながら積分して、架構の復元力特性を求めた。復元力特性は、架構がほぼ弾性状態を保つ、即ち、ステンレス鋼管梁が弱非線形性を示す領域から、入力地震加速度の増大に伴って強度の非線形性を示す領域に至るまで約3段階に分類した。 また、本年度は、ステンレス鋼梁の静的曲げ試験と材料特性を評価するために短柱圧縮試験を行い、静的載荷時の梁の力学的特性についても調べ、振動実験結果を部材の静的挙動から予測するための基本的資料も蓄積した。 得られた成果を要約すると、 1)架構がほぼ弾性挙動を示す小変位領域における水平剛性は、ステンレス鋼管梁部材の圧縮実験結果から得られる初期弾性係数と0.1%オフセット耐力時の割線係数との平均値を用いることにより、比較的良好に予測できる。 2)架構が強度の非線形性を呈する領域の応答特性は、鋼管の短柱圧縮試験から得られた0.1%オフセット耐力を降伏応力度として求めた架構の降伏水平力と、1)の手法で得た初期剛性を用いて計算される降伏水平変位を無次元化の基準量として、復元力-応答変位スケルトン曲線を整理すれば、SS400級鋼の応答特性とほぼ等しくなる。
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