オーディトリアムの音響設計においてその内部の音場を精度よく予測することは重要である。従来は音線法、鏡像法のような幾何学的な手法が用いられているが、このような予測手法では波動的に扱わねばならない低・中周波数域において、精度の高い結果が得られない。これまでKirchhoffの公式による境界積分方程式(BF)を用いた予測法を提案して来たが、数値解の安定性に問題が生じていた。本研究ではKirchhoffの公式の法線微分形(NDF)に焦点をあて、その有効性について検討を加えた。検討の内容は、音源波形の与え方、各要素からの寄与の計算法、望ましい要素形状、要素寸法と時間ステップの与え方等について、解析解の得られる単純な形状の立方体の室において検討した結果、音源波形としては計算が容易でかつ精度も高い2次曲線を用いるのが妥当であること、各要素形状は偏平でないこと、NDFを用いれば要素寸法と時間ステップの比が20程度の大きな値でもかなりの反射次数まで発散せずに安定した解が得られることがわかった。このことは少ない要素数、少ない計算時間で高い周波数帯域まで計算することが可能で、NDFを用いる場合の大きな利点である。 安定性と精度のより高い数値解を得るため周期的定常応答計算において提案されているBFとNDFを結合して解く方法を、過渡応答の場合にも適用することを試みた。周期的定常の場合には、結合のための定数は、1/kにとるのが望ましく、これはBFの積分方程式の時間微分形を用いることを意味する。計算を種々試みた結果、BFの時間微分形そのものが、Δx/cΔtの値が小さい場合には安定性が増加したが、大きな値では安定性はあまり改善されなかったため、結合した計算においても、BFの時間微分形の特徴がそのまま結果に表れ、NDFのみを単独で用いることが望ましいことが結論として得られた。
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