近世社会を経済面で実質的に支えた城下町が、市場経済を基本とする近代経済社会を導く基盤を形成したとの視点に立ち、日本の近世都市の空間構成と社会構成、それを支える都市理念と社会経済システムを把握するとともに、これらをヨーロッパにおける近代経済社会の骨格を生み出したオランダの諸都市と比較考察することによって、近代経済社会の成立基盤として機能した日本の近世城下町の都市構造の存在形態を露にすることを目的としている。本年度は、昨年度検討した近世城下町の形成過程に関する類型区分を踏まえ、城下町成立後の都市プランの展開過程について検討を加え、都市プランは総郭型から町郭外型へ、城下町人地の町割は序列の強いものから序列の弱いものへ展開することを明らかにし、ヒエラルキッシュな社会構成と閉鎖性・一円性・重層性を志向する空間構成から、フラットな社会構成と開放性・連続性・均質性を志向する空間構成への展開に、近世城下町の都市構造の特質を見出すことができた。さらに、こうした特質を備える都市構造の到達点は、城下町の外港として新設された都市に顕著に見出せることを、秋田藩の能代・土崎、弘前藩の青森、庄内藩の酒田、長岡藩の新潟について、文献・絵画史料の検討と宅地割レベルの都市復元図作製を通して明らかにし、近世港町を近世城下町の到達点として捉える新たな研究視角を提示することができた。以上の研究視角は、残された課題である港町を中心とするオランダの近世都市の都市構造との比較考察を試みる上でも、資するところ大きいと考えられ、この点について検討を加えるとともに、それを支える都市理念や社会経済システムの解明を進めることが次年度の課題である。
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