近世社会を経済面で実質的に支えた城下町が、市場経済を基本とする近代経済社会を導く基盤を形成したとの視点に立ち、日本の近世都市の空間・社会構成、それを支える都市理念と社会経済システムを把握するとともに、これらをヨーロッパにおける近代経済社会の骨格を生み出したオランダの諸都市と比較考察することによって、近代経済社会の成立基盤として機能した日本の近世城下町の都市構造の存在形態を露にすることを目的としている。平成4年度は、日本の城下町形成過程に関する類型区分の検討を行い、平成5年度は、城下町成立後の都市プランの展開過程を中心に検討を加えた結果、ヒエラルキッシュな社会構成と閉鎖性・一円性・重層性を志向する空間構成から、フラットな社会構成と開放性・連続性・均質性を志向する空間構成への展開に、近世城下町の都市構造の特質を見出せることを明らかにし、こうした都市構造の到達点は、城下町の外港として新設された都市に顕著に見出せるとの仮説を提示した。本年度は、これら外港都市の空間・社会構成について、昨年度調査を行った秋田藩の能代・土崎、弘前藩の青森、庄内藩の酒田、長岡藩の新潟と今年度調査を実施した小浜藩の小浜・敦賀を取り上げ、文献・絵画史料の検討と宅地割レベルの都市復元図作製を通して再検討を加え、先の仮説の検証を試みた。なお、以上の研究成果を踏まえ、日本の近世城下町とその分身である近世港町と、16〜17世紀のオランダ諸都市を始めとするヨーロッパ諸都市の空間・社会構造との概括的な比較検討も試み、フラットな社会構成と開放性・連続性・均質性を志向する空間構成が、管理交易から市場交易へ、互酬・再配分経済から市場経済へという、普遍史としての近代経済社会の成立過程に伴って生み出された都市構造であるとの見通しを得た。最後に、以上の成果を公表した研究報告を集成して研究成果報告書をとりまとめた。
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