本研究では濃度マランゴニ効果を表す数式モデルを開発することを目的とした。濃度マランゴニ効果とは、界面活性剤の水表面における濃度差により生じた表面張力差が引き起こす現象の総称である。この現象は水汚染、気液界面での物質移動あるいは浮遊選別など工学的にも様ざまな事項と関連が深いしかしながら現象が複雑なために今日まで余り調べられていない。 本研究ではまず現象を記述する一般的な数式モデルを開発した。この数式モデルでは流体の質量、運動量の保存則の他に、活性剤のバルク流体中および水表面における保存則が考慮されている。また、水表面での活性剤の吸着にはLangmuir型の式を修正して用いている。そして、流下方向の表面張力勾配が流体運動の水表面における境界条件として作用する。 界面活性剤の水溶液を用いて、非常に浅い水深での開水路からの流出に伴う表面加速現象をトレーサー法により測定した。使用した界面活性剤はドデシルベンゼンスルフオンサンナトリュウム、ドデシル硫酸ナトリュウムとテトラデシル硫酸ナトリュウムの三種類である。 数式モデルの数値解は実験値を再現し、このモデルの妥当性が示された。とくにこのモデル中に含まれる吸着反応速度過程式のパラメータの値は物質に固有の値であると予想されているが、これまでこの値を物性値として特定するまでに至っていない。本研究では現象の特徴が現れやすく、手法的にも簡単な実験を繰り返し、同時に厳密な数値計算を行うことにより、上記三種類の活性剤に対してそれぞれ固有の値を推定することに成功した。このことはこの研究の成果である。ただし、計算開始時点での初期条件の設定にはなお検討の余地が残されている。また、界面活性剤の吸、脱着過程についてはさらに詳細な研究が必要である。
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