転位芯構造は、結晶の強度や塑性に直接的に関係しているにも拘らず、これまで実験的知見に乏しく、モデル結晶を用いた計算機シミュレーションに頼ってきたのが実状である。これに対して、研究代表者のグループは陽電子消滅法を用いて、転位芯構造の変化を実験的に検出することに世界で初めて成功した。 陽電子消滅法は、従来転位の研究に多用されてきた透過電子顕微鏡観察法に比べて、転位のバーガース・ベクトルの大きさを直接評価できること、原理上転位芯の原子配列に敏感であること、薄膜を必要とせずバルク試料のままで測定できること等の特長を持つ。 本研究では、転位芯構造の動的・静的変化についての実験的知見を得るために、研究代表者が、独自に開発を進めているβ^+-γ同時計測陽電子寿命測定装置に、新たに引張り・圧縮試験機を結合し、応力下でのin-situ陽電子寿命測定システムを構築することを試みた。 その結果、今回試作したβ^+-γ同時計測陽電子寿命測定装置の時間分解能は、約350psec FWHMであり、転位芯構造の微妙な動的・静的変化に追随するためには、不十分であること、観測した陽電子寿命スペクトルにポジトロニウム形成に起因すると考えられる長寿命成分が含まれることが判明した。現在これらの問題を解決するために、低速陽電子成分の除去と、陽電子の飛行経路の真空化を計画している。 システム完成後は、積層欠陥エネルギーの異なるいくつかの面心立方金属・合金を変形し、種々の応力下でin-situで陽電子寿命を測定すると共に、除荷重時の寿命値と比較することによって転位芯構造の応力変化及びそれに及ぼす積層欠陥エネルギーの影響を明らかにする。
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