本研究は金属材料の高温破壊の成因あるいは超塑性現象の素過程として知られる結晶粒界すべりの機構を解明することを意図したものである。 これまでのこの分野の研究の多くは、多結晶試料、双結晶試料いずれの場合もいわゆる粒界すべり量ー時間曲線を元にして状態方程式を定め、粒界すべり速度の応力、あるいは温度に対する依存性を考察することによって機構を検討している。この種の解析は、粒界すべりが進行しても結晶粒界の構造が不変であることを暗黙の前提としている。しかし、適切な手法が見あたらないために、この前提が妥当であるか否かは未だに明かではなく、それがこの分野の研究が停滞している原因となっている。 著者らは変形中に外力を急変させる、いわゆる応力急変試験は、同一の結晶粒界構造、同一の結晶粒内組織下で粒界すべり速度の応力依存性を知る上で有効であると考え、装置の試作、ならびに双結晶試料を使用した実験を行った。その結果、対象としたアルミニウム<011>θ=69゚対象傾角粒界の粒界すべり挙動は、従来提唱されている拡散支配の機構では理解できず、粒界内での転位の運動が粒界すべりの素過程であることを見出した。さらに、外力が直接粒界内部の転位に作用するのではなく、結晶粒内の転位組織に起因する内部応力が粒界すべり速度に大きく影響していること、いわゆる粒界すべり硬化は、内部応力の発達により生ずると考えるとその特徴がよく理解できることを見出した。次年度は本手法により多様な結晶粒界について実験を進める予定である。
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