粒界すべり硬化は粒界すべり機構の本質を反映した現象であり、その特徴を把握することは粒界すべり機構の解明に新たな情報を与えるものと期待される。本研究はこのような立場から応力急変試験を実施して粒界すべり硬化の特徴を調査、解析し、一般大角粒界の粒界すべり機構の解明を試みたものである。 実験の結果、1)応力の急増によって粒界すべり速度は例外なく増加するが、急増後の粒界すべり速度は、応力の急増量のみならず応力急増前の粒界すべり速度に依存していること、2)応力の急減によって粒界すべりの速度の低下もしくは停止が生ずること、3)応力の反転によって粒界すべり速度は著しい増加を示すこと、などが明らかになった。さらに、4)応力を急減した後再度応力急減前の水準まで応力を増加すると、応力の急減前よりも高い速度での粒界すべりが生じ、粒界すべり硬化は回復可能な機構で生じていることが判明した。また、応力急変に伴う粒角すべり速度の変化は従来提唱されている拡散支配の機構およびMcLeanの機構では説明できないことが確認された。これらの事実は、粒界すべり硬化が粒界自体の変化に起因するのではなく、マトリックスの変形と関連していることを意味している。 以上の結果に基づき、粒界すべり硬化は結晶粒内の転位組織の発達に伴って形成される内部応力に起因すると結論した。有効応力を評価して、応力急変に伴う粒界すべり速度変化を検討したところ、本研究における実験結果が矛盾なく説明できることがわかった。
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