複合材料の変形・破壊挙動の解明には界面及びその近傍の力学的挙動をできるかぎり定量的に把握する必要がある。しかしながら界面の持つ多用性とその影響の複雑さのために、小数の特定の性質に関連した界面挙動を除いては未だ明らかになったとは言えない。本研究では、複合材料でしばしば観察される、より低歪で破断する構成材の多重破断現象に着目し、この現象を利用して界面の力学的挙動を明らかにすることを目的として実験、解析、モンテカルロシミュレーションを行い、多くの興味ある成果をあげることができた。主な結果は以下のように要約される。 航空機用材料として用いられている積層型炭素繊維強化エポキシ複合材料では0/90/0タイプ中の90°プライの多重破断現象は界面の応力伝達を介して生じる。応力分布解析と計算機援用モンテカルロシミュレーションより、応力伝達の担い手はプライ界面の約15μmのエポキシ樹脂富化層であることを突きとめた。 次世代のマグネットや電力貯蔵への応用が期待されその開発が進められている銀シースY-Ba-Cu-OおよびBi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O酸化物超伝導複合線材中の酸化物の多重破断現象の実験結果の解析より、界面のせん断強さは30-40MPaであることを初めて明らかにした。 次世代の高温材料として大きな期待を寄せられている全塩基複合材料用の被覆繊維では応力負荷に伴い被覆層が多重破断し、繊維表面にクラックを形成する。本研究では多重破断現象とクラック進展の関係を実験的に把握すると共に、理論的に解析し、クラック先端のエネルギー解放率は多重破断により低下することを明らかにした。さらにモンテカルロシミュレーションにより、多重破断の進展と繊維強度の関係を定量的に表現することに成功した。
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