耐摩耗性クロムめっき膜のクラック発生には、素地金属及びめっき膜への水素吸収とその脱離が密接に関与する。このことに関し2つの論文にまとめたので、その要点を以下に述べる。 1. 素地金属(基板)にチタン、純鉄、純ニッケル、銅及び黄銅、ステンレス、ニッケル-リン、アモルファス合金を選び、サージェント浴からのクロムめっきと残留ひずみ、及び硫酸酸性浴からの水素発生と残留ひずみの関係を調べ、以下のことが明らかになった。 (1)裏面にひずみゲージを張った基板を用いると、その表面からの水素吸収による基板の変化が速やかにとらえられる。定常状態での基板の変形は、基板の水素溶解量の大きさの順、チタン>ニッケル>鉄》銅、亜鉛に従う。(2)クロムめっき初期の圧縮ひずみは、鉄、ニッケル、チタン、ステンレス、ニッケル-リン合金のような、水素原子との親和性が大きい基板への水素吸収によって現れる。その程度は、チタン>鉄>ニッケル>ステンレス>ニッケル-リン合金の順である。(3)水素吸収により大きな圧縮ひずみが生じるチタン基板の場合、得られるクロムめっき膜は剥離し易く密着性に劣る。 2. 銅板上にWatt浴からめっきして得たニッケル板及び市販のニッケル板の2種類の基板を用い、その表面状態が、基板の水素吸収によるひずみ、及びクロムめっき膜形成によるひずみの両方に及ぼす影響を、高感度動ひずみ計を利用して調べ以下のことが明らかになった。 (1)酸のカソード電解に際し、水素発生のための過電圧は、銅板上にWatt浴からめっきして得た200面に配向したニッケルに比べ、市販の200面に配向したニッケル上でより小さい。また、後者のひずみの経時変化は、前者のそれに比べ水素発生反応の影響をより強く受ける。(2)市販のニッケル板では、クロムめっき及び酸のカソード電解における基板ひずみの経時変化が互いに類似した傾向にあり、めっき初期では水素発生反応が優先的に生じる。(3)銅板上にWatt浴からめっきして得たニッケル板では、クロムめっき開始直後に大きな圧縮ひずみが生じめっき膜が速やかに形成される。このときの基板ひずみの経時変化は酸のカソード電解時でのそれから大きく異なる。
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