ポリピロールを始とする導電性高分子薄膜の合成法として電解重合法が近年注目されている。材料の機能の向上を図る上では合成過程における分子種の構造変化を検討する必要があり、電解重合時の電極上の化学種の状態をin-situで解析することは極めて重要な課題である。この課題を解決する手段として、近赤外レーザーを励起光源とするFT-ラマン分光法を用い、電解重合プロセスのin-situ計測を可能とする測定系を構成した。電極上での重合反応過程を解析するには電極近傍に存在する極微量の化学種を検出することが必要となる。このことから、表面増強ラマン散乱(SERS)を利用した計測を行った。電極をSERS活性とするために、金、銀の電極を0.1MKCl水溶液中で酸化還元処理(ORC)することにより粗面電極とした。アニリンをモノマーとする電解重合でポリアニリンの生成をFT-SERSにより検討した。電位をパラメータとし、銀電極では、-0.3Vから+0.15V(vs.SCE)まで印加電圧を変化させてラマンスペクトルを測定した。従来のポリアニリンの合成は酸性溶液中で電位を+1.1V_<VA>.SCE程度に設定して行なわれている。このような条件下で白金電極上に合成したポリアニリンのスペクトルと比較すると、Nd:YAGレーザー照射条件下では+0.15Vとかなり低い電位で重合反応が進行することが分かった。このときレーザー光照射部位にのみ黒いスポットが観測された。このスポットの構造を赤外顕微鏡で測定した結果、ドープ状態のポリアニリンが生成していると同定できた。低い電位で重合が進行する原因として粗面電極の影響を検討した。電極として平滑な金板を用いた場合にも同様の結果が得られた。アニリンの電解重合は通常溶液を酸性(pH=1〜2)として行なわれ、中性溶液では重合膜は生成しない。しかし、レーザー光照射下では中性(pH=6.7)溶液でもポリアニリンが生成することが分かった。
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