タンデム型質量分析計(MS/MS)を用いた正イオン化学イオン化法において各種化合物から生じた付加イオン(M+R)^+の衝突活性化を行い、生じる娘イオンスペクトルを測定、検討した。その結果、メタン試薬ガスの系においてはアルキルベンゼンや多環芳香族炭化水素の(M+C_2H_5)^+は娘イオンとしてMH^+とC_2H_5^+を生成するが、(M+C_3H_5)^+のそれはC_3H_5^+は生じるものの一般にMH^+を生じず、(M+C_3H_5-C_2H_2)^+などを生じることが判った。フェノールやケトンも同様に(M+C_2H_5)^+からMH^+とC_2H_5^+を生じたが、エステル、カルボン酸、アミンなどでは(M+C_2H_5)^+の娘イオンとしてC_2H_5^+は生じるものの、MH^+は生じず、官能基や分子構造に特有の(M+C_2H_5-A)^+を生じること判った。これらのことからメタン試薬ガスの系で(M+C_2H_5)^+からMH^+とC_2H_5^+を生じるものは、まずMS/MSモードにおいてC_2H_5^+(m/z 29)を生じる親イオンスペクトルを測定し、得られたイオン種に対して娘イオンスペクトルを測定し(複数の場合は順次測定)し、そのイオンより質量数が28少ないイオン(MH^+に相当)とC_2H_5^+が生じていることが確認できれば分子量推定が可能になることが判った。また、(M+C_2H_5)^+のイオン強度が小さく判別しにくいものでも生成さえしていれば、この手法は適用できることも判った。なお、イソブタン試薬ガスの系でも付加イオン(M+C_4H_9)^+に対し同様の手法が適用可能であった。アルコールのようにメタン試薬ガスで付加イオンを生じない化合物やエステル、カルボン酸、アミンのように上記方法が適用できない化合物に対し、アンモニア試薬ガスの付加イオン(M+NH_4)について検討した。その結果、これらの(M+NH_4)からは娘イオンとしてMH^+とNH_4^+を生じることが判った。そして分子量推定のためにメタン試薬ガスの(M+C_2H_5)^+と同じ手法が(M+NH_4)^+に対して適用できることを確認した。これらのことから、現在まで検討した全ての化合物タイプに対し、この分子量推定法が適用可能であることが判った。
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