量子化された半導体超微粒子はバルク結晶とは異なった特異な光化学特性を示す。超微粒子の光物性や光化学特性を粒径の関数として評価したり、光機能材料としての性能を最大限に発揮させるためにも、超微粒子の粒径分布をできるだけ狭くする必要がある。本研究では、比較的広い粒径分布を持つCdS超微粒子コロイド溶液を粒径により分離分画して、分画成分の光化学特性について検討した。 1.CdS超微粒子の効率的粒径分離 CdS超微粒子(Q-CdS)コロイド溶液は安定化剤としてヘキサメタリン酸存在下、Cd^<2+>イオンとH_2Sガスの反応により調製した。得られた粒径3-9nmのサイズ分布の広いQ-CdSを、アクリルアミドゲル泳動管により、管の上部から下方へ100Vで電気泳動させた。その後、Q-CdSを含むゲルを上部から下部に6個にスライスした後、再び電気泳動によりゲルからQ-CdSを抽出した。この操作により、ゲル中のQ-CdSを短時間で効率的に抽出することが可能になった。分画したQ-CdSの吸収スペクトルは下方の成分ほど吸収端のブルーシフトが大きくなり、立ち上がりも急になった。透過型電子顕微鏡観察により、各々の成分中のQ-CdSの粒径分布は狭く、平均粒径は下端の成分で3.58nm、上端で5.02nmであり、ゲル電気泳動法と電気泳動抽出の組合せによりQ-CdSが効率よく粒径分離できることがわかった。 2.粒径分離したCdS超微粒子上での光誘起電子移動反応 分画したQ-CdS上におけるMV^<2+>の光還元速度を調べた。正孔捕捉剤としてEDTA、電子アクセプターとしてMV^<2+>を加えナノ秒Nd:YAGパルスレーザー(355nm)を照射した。MV^+の生成速度をコロイド中に含まれるQ-CdSの全表面積で割った単位表面積当りの生成速度は、粒径が小さいほど高くなった。MV^+生成のナノ秒過渡吸収応答とQ-CdSへのMV^<2+>吸着量の検討から、光電子移動はMV^<2+>の拡散支配ではなく、Q-CdSの光励起電子の還元力支配であることを明らかにできた。すなわち、粒径減少に伴い量子サイズ効果により伝導帯位置が負電位にシフトして光励起電子の還元力が増加したためと考えられた。そこで、伝導体位置の負電位シフト量と生成速度の関係を定量的に解析し、両者の間にTafel式が成り立つことを明らかにした。また、コロイド中に過剰のCd^<2+>イオンを添加してpHを上げると、表面再結合が抑えられて生成速度が増加することも見出した。
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