研究概要 |
ハロ芳香族類(ArX)からフルオロ芳香族類(ArF)を合成するハロゲン交換フッ素化試薬としてはKF等のアルカリ金属フルオリドが汎用されているが,無水フッ化水素(HF)によるArXのハロゲン交換反応は熱力学的に不利であって行われていない。本研究は,HFおよびHF-塩基溶液を用いてArXからのArF合成を検討した結果,生成HXガスを反応系外に速やかに除去することにより効率的にArFが得られることを見い出した。 平成5年度は前年度で用いた反応基質(2-クロロピリミジン類、2-クロロピリジン類、2,4-ジニトロクロルベンゼン等)に加えてクロロジアジン類、クロロキノリン類、2-クロロオキサゾール類および2-クロロチアゾール類のHFによるハロゲン交換フッ素化反応を行い、基質中のハロゲン種および置換基の影響,HFに体する有機塩基の共存効果,および反応機構等について検討した。用いた芳香族ハライドの反応性はピリミジンの2位>ピリミジンの4位>ピラジンの2位>ピリダジンの3位>キノリンの2位>ピリジンの2位>>2,4-ジニトロクロルベンゼン>ピリジンの3位の順であり、複素環ヘテロ元素の隣接炭素に置換するハロゲンのハロゲン交換フッ素化が最も起こり易く、温和な条件下で対応するArFが収率よく得られた。一方、2-クロロベンゾチアゾールは対応するArFを与えるが、2-クロロベンゾオキサゾール類は対応するArFの生成が殆ど見られず、新規化合物である2,2-ジフルオロベンゾオキサゾリン誘導体をほぼ定量的に与えることを見出した。 本反応は強酸のHFが複素環芳香族化合物の窒素等のヘテロ原子にプロトン化することによって、隣接する炭素を活性化し、同時にヘテロ原子が電子不足となったことによってF-アニオンの求核攻撃が容易になったものとして説明される。従って、本反応はフルオロ芳香族合成法として新規反応として位置づけられ,特に従来合成が困難とされているフルオロアジン類の効率的合成法として有用であることを明らかにした。
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