研究概要 |
本研究は、キラル1,1'-ビナフチル骨格2個の間を種々の芳香族基2個で架橋した光学活性シクロファン(1)を構築し、その分子認識能を研究、さらに有機合成等への利用について検討を加えるものである。本年度は、鍵化合物である光学活性シクロファン(1)の合成を中心に研究を進めた。 1.光学活性シクロファン(1)の合成 原料であるキラル1,1'-ビナフトールは(R)-または(S)-1,2-ジアミノシクロヘキサンにより容易に光学分割できる。このものとジハロゲン化物[2:たとえば、4,4'-ビス(ブロモメチル)ビフェニルエーテル]とを2:1のモル比でアセトン中炭酸カリウム存在下で反応させると、第一の架橋体(3)が収率よく得られた。さらに、アセトン中炭酸カリウムまたはDMF中水素化ナトリウム懸濁液に2と3を1:1のモル比で滴下すると、所望の1が40〜70%の収率で得られることが分かった。ジハロゲン化物として種々のものを用いることができる。また、アゾベンゼン骨格を芳香族架橋基に利用した1も合成できた。 2.光学活性シクロファン(1)の分子認識 シクロファン(1)を用い、クロロホルム中種々のゲスト分子を加え、旋光度により相互作用を追跡した。濃度と旋光度の関係から、非線形最小二乗法により平衡定数Kの値を求めた。ゲストとしてp-置換フェノール類を用いたときは、置換基の影響を顕著に受け、分子の酸性度だけでなく大きさにも依存する。水素結合が不可能なアニソールではKは690で、空孔内疎水性相互作用の重要性が示された。 このように、旋光度を用いて分子認識能の評価ができることから、今後は情報の読み書きに旋光度を利用する研究に展開が期待される。
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