研究概要 |
炭素原子の1個あるいは2個をケイ素原子で置き換えたアルキルシランとシラシクロアルカンを本研究の試料にした。反応経路を詳細に検討するために重水素置換化合物を合成した。置換位置はケイ素に結合した水素のほかアルキルシランではすべての炭素原子に結合した水素を、シラシクロアクカンではα位の炭素に結合した水素を目標にした。エチルプロピルシランでは7種、2個のケイ素の間にメチレン基をはさんだアルキルジシランは12種、4,5,6員環のシラシクロアルカンでは20種になった。これらはいずれもガスクロマト分取により精製し、質量スペクトルの試料とした。EIMSに現れる分子イオンからの分解反応を検討した。エチルプロピルシランのメチル基脱離はプロピル基側からのみ脱離し、ケイ素に結合した水素はプロピル基側の水素と容易に交換する。ジシランでは2個のケイ素間にあるメチレン基の数で反応様式が変化する。0あるいは1個のジシランではケイ素に結合したメチル基ともう1つのケイ素に結合した水素とが開裂を伴って交換をするが、メチレン基が多くなるにつれてこのような転位反応は減少し、ケイ素原子に由来する反応は少なくなる傾向を見せる。シラシクロアルカンではエチレン脱離と引き続くエチレン脱離が特異的に大きく起きる。最初の開裂はケイ素とα炭素との結合で、その際ケイ素に結合した水素とα炭素に結合した水素の交換を伴う。ケイ素にメチル基があるとエチレン脱離とメチル脱離が競争する。シラシクロヘキサン分子イオンのab initio MO計算から、分子イオンはケイ素とα炭素との結合が伸び、ケイ素に正電荷が炭素にラジカルが存在した安定化構造をもつ。これらの反応は溶液反応と類似性をもつと考えられるものがあり、イオン分子反応研究への足がかりが得られた。
|