研究概要 |
窒素や酸素を含む縮合型複環化合物において、縮合環系における結合部位の光学異性体を立体選択的に合成する方法は極めて少ない。報告者らはすでに三級アリールジアルキルアミン類が、Pd(II)化合物によって-電子酸化を受けてラジカルカチオン中間体、更にイミノニウムイオン中間体を形成し、自ら二量化するかまたは、環状オレフィンと反応して、天然の薬理活性物質の類縁体である複素三環性または四環性化合物を位置選択的、立体選択的に与えることを見いだし報告している。そこで本研究では、N,N-ジアルキルアニリン類及びN-アリールピロリジン類を反応基質とし、Pd(II)による-電子酸化によってこれらの安定型イミノニウムイオンを系中で発生させ、不斉源存在下での機能性オレフィンとの反応及び二量化反応における立体選択性、さらにはエナンチオマー選択性について検討を加えた。その結果、(1)キラルオレフィンとして利用しうる機能性オレフィンとして、マルトール、1,2-シクロヘキサジオン、シクロペンタノン-2-カルボン酸メチル、シクロペンテノン、2-ヒドロキシ-3-メチルシクロペンテノンなどを用いて、N-アリールピロリジン類との付加反応を検討したが、いずれの場合も環化付加物の収量は極めて低く(0〜5%程度)、N-アリールピロリジンの二量化体または未閉環付加物が主生成物に成った。立体障害の影響がみられた。(2)N,N-ジアルキルアニリンにおいて,N-アルキル鎖が大きくなると付加反応が抑制され、アニリンからの脱アルキル化、オレフィンへのアルキル化、アリールアミノ化が優先的に起こることが分かった。(3)N-アリールピロリジン類は、環状オレフィンが存在しないと環化二量化してシス融着し、シン型及びアンチ型二量化体の両者を生成するが、キラルPd(II)触媒(Pdのキラル配位子としてL-酒石酸、L-プロリンメチルエステル、L-乳酸などを用いた)を存在させた場合には、シン二量化体には不斉誘起が見られなかったのに対して、アンチ二量化体ではエナンチオマー過剰な生成物が得られた。
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