本年度はまず、架橋位四級窒素を持つポリカチオン型ヘリセンの合成経路を確立するために、基本となるアゾニア[6]ヘリセンの合成を検討した。活性メチル基を持つ2-メチルベンゾ[k]フェナンスリジジニウム塩とベンズアルデヒドあるいは4-ホルミルピリジンとの縮合反応をピペリジン存在下アセトニトリル中で行い、高収率でスチルベン型化合物を得た。これに高圧水銀灯を用い光照射することにより、8a-アゾニア[6]ヘリセン(1)あるいは2-アザ-8a-アゾニア[6]ヘリセン(2)を合成した。さらに、化合物(2)とヨウ化メチルとの反応でアザ窒素をメチル化し、新規化合物ジアゾニアヘリセン(3)の合成に成功した。次に、^1Hおよび^<13>CNMRを詳細に検討し、対応する炭化水素ヘリセン類と比較した。アゾニアヘリセン(1)の正電価は、四級窒素近傍の環に局在化しているが、ジアゾニアヘリセン(3)とすることにより、ヘリセン環全体に正電価が広がることを明かにできた。また、還元電位を測定したところ、いずれのアゾニアヘリセン類も、対応する炭化水素ヘリセンより還元され易くなっていることがわかった。 一方、四級窒素を数個含む多環のヘリセン類を合成する新規ルートとして、ピリジンとアセチルピリジンを出発物質とする方法を検討した。すなわち、4-アセチルピリジンを臭素化した後、ピリジンとの四級化、還元反応ついで脱水により、スチルベン型とした。これを光照射することにより閉環し、10-アザベンゾ[a]キノリジニウム塩の合成に成功した。今後、10位のアザ窒素を四級化し、同様の反応を繰り返すことにより、多環のヘリセン類に導ける可能性があり、新規合成ルートへの手がかりができたと言える。
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