本研究では、新たなホストとして立体効果が期待できる芳香環をシクロデキストリン空洞と結ぶメチレン鎖の長さを変化させて導入したアミノシクロデキストリン誘導体を7種合成し、これらのホストを用いた不斉誘導性の検討を行った。同時に不斉選択性発現に重要であると考えられるホストゲスト間の構造をNMRを用いて検討し、不斉誘導性との関連性について考察した。 その結果NMRによると各誘導体のコンフォメーション(フェニル環と空洞の相対的位置関係)はメチレン鎖の長さによって異なり、最も鎖の長いフェニルプロピルアミノシクロデキストリンはフェニル基を自らの空洞に包接した分子内コンプレックスを形成し、シクロデキストリン環に歪をもつことが判明した。また、α-炭素の不斉性が異なるホストでエナンチオマー間で異なる疎水性空洞を形成していることが判明した。 不斉環元反応の結果については以下の通りである。ゲストにベンゾイルホルミル蟻酸を用いた場合、一般にフェニル基をもつホストの場合不斉選択性は上昇した。しかし、分子内包接しているフェニルプロピルアミノシクロデキストリンでは不斉選択性は減少した。ベンゾイルホルミル蟻酸を用いる系ではホスト構造を敏感に反映している結果となった。ところが一方、インドールピルビン酸やp-ヒドロキシフェニルピルビン酸を用いた系ではホスト構造の変化にそれほど左右されず、不斉誘導性が発現した。これらのホストーゲスト包接体のNMRにおけるROESYを測定したところ、ベンゾイル蟻酸はシクロデキストリン空洞内部に位置しているが、インドールピルビン酸はシクロデキストリン空洞の縁に近接した外部にあるコンプレックスを形成していることが判明した。従ってベンゾイル蟻酸は包接構造の差異を敏感に反映したが、インドールピルビン酸は包接構造の差異を反映しなかったと考えられる。
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