研究概要 |
昨年度のうち口頭発表した実験結果については、論文にまとめ、専門誌Polymerに投稿し、受理された。一方、昨年よりつづいて研究した、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のガラス転移温度(Tg)の立体規則性依存性については、以下のような成果を得た。PMMAはコポリマーではなくホモポリマーではあるが、立体化学的には、置換基の立体配置により、モノマー対(ダイアッド)にはメソ(m)とラセモ(r)の区別があり、したがって、mとrからなるコポリマーと考えることができる。すると、アイソタクチック及びシンヂオタクチック両PMMAは、それぞれ、m及びrのみからなるホモポリマーと見なせよう。コポリマーのTgはその組成だけでなく、モノマーの配列様式にも依存し、三種類のダイアッド(AA,BB,AB:A,Bはモノマーを指す)を指定すれば良いことを前年度示しめしたが、PMMAの場合、それらには、mm,rr,mrというトライアッドが対応し、通常それらはI(アイソ)、S(シンヂオ)、H(ヘテロ)と呼ばれる。前年度の研究により、一組のI,H,SとTgとが1対1で対応することが推論される。逆に、通常のコポリマーと異なる点は、それの組成を変えた試料が一組のモノマー反応性比により記述できるのに対し、立体規則性の異なるPMMAは、重合法(触媒等)を変えて調製するので、反応機構が異なることである。そのような各種のPMMAのTgデータは本来、Tg対S、Tg対rのいずれのプロットでも、一本のカーブ上にはのらないことも推論できる。これらの推論を実験データにより証明した。立体規則性重合が発見されて以来、解決できずにきた、Tgの立体規則性依存性の問題は、コポリマーの一次構造の考えを応用することにより、明解に解決できた。
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