当該年度は、微小電極上へのハイドロゲルの化学的固定法の確立と、これを用いた相転移現象の解析に重点を置いた。さらにIDA電極を設計し、リソグラフィー技術を用いた作成を行なった。以下に、研究の進展状況および新たに得られた知見を示す。 1.ハイドロゲルとしては、ポリアクリルアミド(溶媒極性応答)、ポリイソプロピルアクリルアミド(温度応答)、イソプロピルアクリルアミドーアクリル酸共重合体(pH応答)を選択し、白金微小円盤電極へ化学的に修飾する方法を確立した。すなわち化学的な修飾は、白金表面への水酸基の導入、水酸基とのシランカップリング剤の反応を利用したビニル基の導入、さらに、この電極上での上記ゲルの合成によって達成できる事を見いだした。 2.得られたゲル修飾電極を用い、膨潤、収縮が平衡に達した状態でのレドックス分子の分配、拡散係数を定量的に評価する方法を確立した。すなわちタイムスケールを変化させた電気化学測定を行なう事により、平衡時のゲル中のレドックス分子濃度および拡散係数を独立に決定できる事を見いだした。 3.ハイドロゲルとしてポリイソプロピルアクリルアミド(温度応答)、レドックス分子として[Ru(NH_3)_6]Cl_3を用いた場合、膨潤状態では、ゲル内部の外部で濃度および拡散係数に大きな相違がないのに対し、収縮状態になるとゲル内部でのレドックス分子の著しい濃縮および拡散係数の減少が起きる事を初めて定量的なデータとして示した。さらに、この濃縮現象をゲル内外の分配平衡として捉え、熱力学的な解析を試みたところ、エンタルピー変化は吸熱的であり、収縮状態のゲルにレドックス分子の濃縮が起きる事によるエントロピーの増大が、濃縮現象の駆動力である事を見いだした。 4.シリコン基板上にIDA電極を、リソグラフィー技術を用いて作成し、併せてゲル修飾の方法を確立した。
|