主鎖が剛直な全芳香族ポリイミド(PI)では、延伸操作による試料の配向効果が非常に顕著である。我々はこれまで、ポリアミド酸(PAA)の延伸率とポリイミドの凝集構造および力学的特性との関係を調べてきた。今年度は、PAAの延伸率と分子配向の関係を種々の方法で検討した。 1.分子配向の最も一般的な測定法の一つに、偏光顕微鏡による複屈折度の測定がある。PI(BPDA/PDA)のような剛直鎖では、複屈折度はPAAの延伸率と共に増加するが、PI(BPDA/ODA)のような柔軟鎖の複屈折度は延伸率に対して早い段階で一定値に達することがわかった。ただし、高分子の複屈折度の測定では、主鎖の配向のみを直接的に分離できないという問題がある。 2.棒状の色素分子を分散させた高分子フィルムを一軸延伸して、色素分子の紫外吸収二色性と高分子鎖の配向の関係を詳しく調べた。色素として紫外部に強い吸収を持つペリレンビスイミドを用いた。PI(BPDA/PDA)では、延伸したPAAの加熱イミド化の際の分子配向により二色性が観測された。60GPaの高弾性率を示すPI(BPDA/PDA)の配向係数は0.6と大きく、この方法が繊維試料の分子配向の有力な評価法になることが確認された。なお、PI(BPDA/PDA)の330℃における熱処理では、配向係数の増加は観測されないので、この熱処理による弾性率の増加は主として分子鎖の充填度の増加に因ることがわかった。 3.ペリレンビスイミドは、PI中では強い蛍光を示すので、蛍光偏光法による配向評価が可能である。しかし、PAAとは水素結合して消光するので、イミド化過程の動的解析には不適当であることがわかった。
|