研究概要 |
生体膜の高次機能である分子不斉識別機能を有する分子組織体を構築する目的で、不斉源を有する高分子Langmuir-Blodgett(LB)膜に関する研究を行った。LB法は分子配向や分子配列が高度に規制された分子集合体を形成するので、生体膜類似の組織体の分子構築法として期待されている。近年、我々は長鎖アルキルアクリルアミド(AAm)系化合物がLB膜形成能に優れていることを見いだしている。本研究では不斉源として軸不斉ビナフチル基(BNap)を選び、このグループを有する重合性モノマーを合成し、AAmもモノマーと共重合することにより不斉サイトを有する高分子LB膜を作製し、不斉識別機能を有する超薄膜を得ることを目的とした。先ず、AAmと軸不斉ビナフチル基を有するモノマーとの共重合体の水面上に展開した単分子膜の性質について表面圧-面積曲線より詳細に検討した。この共重合体はAAmの側鎖アルキル鎖長が10,12,及び14の場合で、しかもBNapのモル分率が約0.2以下の場合に安定な凝縮単分子膜を形成し、固体基板に移し取ることができ、高分子LB膜を与えることが明らかになった。また、このLB膜のCDスペクトルは正の第一コットン効果、および負の第二コットン効果をもつ分裂型コットン効果を示し、出発原料であるビナフトールのS-Configurationを有する光学活性高分子LB膜が得られたことを示した。次いで、このLB膜の不斉識別について検討した。この単分子膜を一層だけ電極に付着し、作用電極としてフェニルエチルアミン(PEA)に対する不斉選択電位応答を調べたところ、PEAの鏡像体を強く不斉識別していることが明らかになった。LB膜として不斉識別応答を電位変化でモニターし、明らかにした最初の例であると思われる。今後(来年度に継続研究)は他の光学活性化合物に対する応答などやその識別機構について検討していく予定である。
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