研究概要 |
生体膜の優れた高次機能である分子不斉識別能を有する高分子LB膜に付与することを目的として、軸不斉ビナフチルグループを導入した高分子LB膜の作成、その単分子膜、LB膜の性質について検討し、分子認識機能に基づく不斉識別応答や光学分割膜への応用をめざして、研究を行った。先ず、軸不斉ビナフチル基を有する高分子LB膜の作成に成功した。この単分子膜は約1.8nmと極めて薄く、固体基板上にLB膜として累積することもできた。機能としては、生体膜と類似機能の発現をめざし、分子認識機能について検討した。軸不斉ビナフチル基を有する高分子単分子膜を金属電極上に付着し、作用極として光学異性体分子に対する電位応答を観測し、その分子認識、不斉認識能について検討した。この単分子膜修飾電極を電気化学セルにセットし、電解質水溶液中に光学異性体分子としてフェニルエチルアミン(R,S-PEA)を添加したところ10^<-7>Mの希薄濃度のPEAに対して、電位応答を示し、電位はアノード側にシフトした。その電位応答は光学異性体により異なった。S-配置の軸不斉ビナフチル基はR-PEAに対してより大きな応答を示した。明らかに単分子膜中の軸不斉ビナフチル基が光学異性体を不斉識別していることを示している。LB単分子膜が1.8nmと超薄膜であることから高感度を生じ、ビナフチル基が単分子膜中で高度に配向していることが、選択性を増幅しているものと思われる。フェニルエチルアミン以外にもフェニルグリシノールに対しても不斉識別していることが観測され、しかもPEAに対してよりも識別はより大きな応答として現れた。軸不斉ビナフチル基の2位の置換基を水酸基からメトシキ基に変えたときは不斉識別応答は観測されなかった。不斉識別の分子機構についても議論することができた。LB膜において不斉識別応答を観測したのも、またその分子機構についても明らかにしたのはこれが世界で初めての例であり、注目された成果が得られた。
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