本研究では、従来制御可能な重縮合反応の中間体としては全く考慮されていなかったカルベノイド種のカップリング反応を経由する新しい高分子合成反応システム(カルベノイド重縮合)の開発を行った。具体的には、(1)筆者らは既に、エチレングリコールのジクロロ酢酸ジエステルを前駆体として用いるカルベノイド重縮合によって不飽和ポリエステルが合成できることを確認しているが、今回は、この成果を基礎に種々の脂肪族、芳香族ジオールから二官能性ジクロロ酢酸ジエステル類を合成し、これらを“単量体"としてDMSO中金属銅と反応させ、脱ハロゲン-カップリング反応によるカルベノイド重縮合を試みた。その結果、多様な脂肪族ジオール由来のジクロロ酢酸ジエステルを“単量体"として(ROOCCH=CHCOOR)n型不飽和ポリエステル類を合成することが出来た。一方、ビスフェノールA等の芳香族由来の“単量体"からは高分子生成物は得られなかった。(2)また、二種類のジクロロ酢酸ジエステル類を用い、脂肪族-脂肪族、および脂肪族-芳香族型不飽和ポリエステル共重合体の合成を試みたところ、ランダム型およびブロック型の脂肪型-脂肪族型共重合体を出発“単量体"の添加順序の選択により合成できた。さらに、脂肪族-芳香族型ランダム共重合体を合成することにも成功した。(3)次に、両末端に水酸基を持つポリエチレングリコールおよびポリテトラヒドロフランを前駆体として、ジクロロ酢酸ジエステル誘導体を調製し、これらのカルベノイド重縮合によって主鎖中に等間隔に不飽和を有する新しいタイプの反応性セグメント化ポリマーを合成した。さらにこの反応性プレポリマーをスチレンの重合反応の際に共存させるとポリスチレン-ポリエーテル型ネットワーク共重合体が得られた。
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