培養条件を工夫することにより、酵母の一培体A型細胞(Saccharomyces cerevisiaeのX2180-1A)を巨大化した上で、浸透圧ショックにより最高20μm液胞を無傷で遊離させる事に成功した。その巨大液胞膜にパッチクランプ法のWholeーvacuoleーrecording modeを適用したところ、bath bufferにATPが無くしかもCa^<2+>濃度が0.01μMと低い時には、膜電位が0mVでは殆ど電流は流れないが、これにATPを4mM添加すると液胞内へ向かう膜電流(ピークで100pA、その値は0.1pA/μm^2の比活性に相当する)が誘導された。その電流は、設定したH^+濃度勾配(液胞内側pH=5.5、外側pH=7.5)と逆方向へ流れ、しかもATPによって誘導され、さらにV-H^+-ATPaseの特異的阻害剤Bafilomycin A_1により不可逆的な阻害を受けしかもその50%阻害濃度が10nM程度と低いことにより、H^+-ATPaseによるH^+のupーhillな輸送即ちH^+PUMP活性に対応するものと考えられる。さらに4mM ATP添加時(H^+PUMP電流+バックグランド電流)及びそれにBafilomycin A_1添加時における膜電流(バックグランド電流)の膜電位依存性を各々求めその両者の差により、H^+-ATPaseのH^+PUMP活性の膜電位依存性を導出した。また、そのバックグランド電流を構成しているイオン輸送活性は、陰イオン選択性を示し、その透過速度は、NO_3^- > Cl^- > F^->> Glutamateの序列となる。一方、Ca^<2+>が2mMと高くなると、チャンネル由来と思われる非常にnosyな電流がバックグランド電流として誘導され、その膜電位依存性は、内向き整流性を示す。 本研究の成果は、酵母液胞膜及び細胞膜のイオン輸送ネットワークの解析、性ホルモン等の外部刺激による細胞内信号伝達系の解析に対して多大な貢献をするみのではなく、さらに、Host cellとしてXenopus oocyteの代わりにS.cerevisiaeを使用した新しい外来遺伝子機能発現法の開発へと導くであろう。
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