研究概要 |
微生物を多孔性担体に固定化して増殖させると、微生物の形態や酵素生産が通常の懸濁培養時とは著しく異なることがある。本研究は、このような性質を利用した、活性が高く、しかも工業的に利用しやすい固定化微生物を得る新しい方法の開発を目的としている。本年度は、糸状菌Rhizopus chinensisの懸濁培養とポリウレタン製の多孔性担体粒子を用いた固定化培養を行い、培養上清および菌体に含まれるタンパク質をSDS‐PAGEで分析すると共に、懸濁培養時の培養上清に含まれるリパーゼを精製し、その性質を調べた。成果の概要は以下の通りである。(1)固定化および懸濁培養したときの培養上清と菌体に含まれるタンパク質をSDS‐PAGEで分析したところ、泳動パターンは大きく異なっており、培養法の違いにより産生されるタンパク質や分泌されるタンパク質の種類と量が大きく異なっていた。(2)懸濁培養時の培養上清に含まれるリパーゼをイオン交換および疎水クロマトグラフィーやゲル濾過法を用いて単一に精製した。(3)精製したリパーゼは分子量32,000の一本のポリペプチド鎖からなるモノマー酵素であり、反応至適温度およびpHはそれぞれ37℃およびpH5.5であった。また、凍結乾燥した精製リパーゼの活性を調べたところ、エステル加水分解反応活性は81.8Unit/mgであったが、エステル交換反応活性は検出されなかった。したがって、Rh.chinensisは菌体外にエステル加水分解反応活性に優れたリパーゼを分泌し、菌体にはエステル交換反応活性に優れたリパーゼを保持していることが明らかになった。
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