ライムギの細胞質を有する六倍性コムギ(cereale)-CSには、“midget"と呼ばれる非常に小型の染色体が存在する。本研究では、この染色体に座乗し、ライムギの細胞質と相互に作用する遺伝子の単離を目的としている。Midget染色体特異的なDNAマーカーを探索するために、ゲノムサブトラクション法の1種であるRDA(Representational Difference Analysis)を応用したが、特異的な塩基配列は得られなかった。また、200種の10塩基からなる任意の塩基配列をプライマーとし、PCRを行ったが、特異的RAPD(Random Ampli-fied Polymorphic DNA)マーカーは増幅されなかった。 本研究ではさらに、巨大DNAをクローニングできる酵母人工染色体(YAC)ベクターを使い、(cereale)-CS DNAの中からmidget染色体を含むクローンを選抜することを計画した。しかし、六倍性コムギである(cereale)-CSの全DNAをカバーするようなYACライブラリーの構築は、たとえ平均200kbのDNA断片がクローニングできても、40万近いクローンを扱う必要がある。そこで、(cereale)-CS染色体のテロメア領域を選択的にクローン化するようなYACベクター(pJS97)を用い、ライブラリーを構築することにした。 Midget染色体には、両端にテロメア配列が付加されていることがFISHで示されており、(cereale)-CSには、21種のコムギ染色体とmidget染色体が含まれているので、染色体の両サイドで構造が異なっていると仮定すると、44種類のテロメアを含む断片が生じ、その中の2種がmidget染色体由来ということになる。現在までの結果では、植物のテロメアがこの方法によって効率的にクローン化されることが示され、約80のテロメアYACクローンのうち、少なくともひとつは、約100kbのサイズを持ち、midget染色体の一方のテロメア領域を含むと考えられている。現時点ではさらに、もう一方のテロメアのスクリーニングと、これらを起点とした染色体ウオーキングを行っている。
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