ライムギの細胞質を有する六倍性コムギ(cereale)-CSには、“midget"と呼ばれる非常に小型の染色体が存在する。本研究では、この染色体に座乗し、ライムギの細胞質と相互に作用する遺伝子の単離を目的としている。本年度は、特異的DNAマーカーの探索を、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法及びRDA(Representational Difference Analysis)法を用いて行った。また、これらのマーカーが有効に利用でき、さらには巨大DNAをクローニングできる酵母人工染色体(YAC)ベクターを使い、(cereale)-CS DNAの中からmidget染色体を含むクローンを選抜することを計画した。しかしながら、六倍性コムギである(cereale)-CSの全DNAをカバーするようなYACライブラリーの構築は、たとえ平均200kbのDNA断片がクローニングできても、40万近いクローンを扱う必要がある。そこで、(cereale)-CS染色体のテロメア領域をYACにクローン化し、その中からmidget染色体由来のテロメア領域を選び出すことにした。 Midgetの染色体には、両端にテロメア配列が付加されていることがFISHで示されており、(cereale)-CSには、21種のコムギ染色体とmidget染色体が含まれているので、染色体の両サイドで構造が異なっていると仮定すると、44種類のテロメアを含む断片が生じ、その中の2種がmid-get染色体由来ということになる。現在までの結果では、植物のテロメアがこの方法によって効率的にクローン化されることが示され、約80のテロメアYACクローンのうち、少なくともひとつは、約100kbのサイズを持ち、midget染色体の一方のテロメア領域を含むと考えられている。現時点ではさらに、もう一方のテロメアのスクリーニングと、これらを起点とした染色体ウオーキングを行っている。
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