平成4年度は、コムギ(北系1354)種子を低温吸水処理(5℃48時間)すると、種子の休眠が打破されると共に種子胚のアブシジン酸(ABA)感受性が低下することを明らかにした。この発芽抑制をするホルモンABAに対する感受性の低下が休眠打破と関係している可能性がある。また、休眠性の異なるコムギ系統の種子のABA含量を測定したところ、品種間差が存在した。しかしこの違いは、休眠性の強弱とは相関していなかった。このことより種子休眠性と種子内ABA量とは関係していないと思われる。 平成5年度は、種子発達時期に伴う胚および糊粉層のGAとABA感受性の変化を調査した。糊粉層は種子発達が進むにつれてGA感受性が増加し、α-amylase合成能が高くなった。一方、胚は種子が発達するにつれてGAに対する反応性が低下し、α-amylase合成能が小さくなった。しかし低温吸水の刺激は、胚のGA感受性を増加させ、α-amylase合成が増加した。このことから、低温吸水は休眠を打破すると共に、α-amylase合成能も増加させ発芽に備えると思われる。糊粉層は低温吸水処理によりGA感受性が変化しなかった。また、糊粉層のα-amylase合成能は低温というよりも種子の発達、特に乾燥により主に増加すると思われる。 平成6年度は、矮性遺伝子Rht3をもつコムギ品種TordoのGA感受性を調べると共に、α-amylase合成抑制作用のあるABAとsucroseの種子胚中の濃度および発芽中における濃度を調べた。Tordoの糊粉層ではα-amylaseの活性は低い。しかしGAによってα-amylaseの活性が全く増加しないのではなく、増加の割合が低いことが明らかになった。それゆえ、Rht遺伝子は全くのGA非感受性でなく、その反応性が低下した突然変異と思われる。胚内のABAとGAの量は発芽が始まると急速に低下し、α-amylaseの合成を抑制する濃度以下になることが明らかになった。
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