研究概要 |
米粒の発育に伴う内生ABA含量の変化を粒大等が異なるイネ2品種を用いて観察した.その結果,両品種ともに粒当たりおよび生体重当たり内生ABA含量は出穂後増加し,粒の発育が最も活発になる時期に最大値に達した後に減少に転じ,粒発育の停止時期以降は出穂期ごろの低いレベルのまま推移することが分かった.また,同一穂内の一次枝梗上粒,二次枝梗上粒の各々において上記と同様に内生ABA含量の出穂後の変化を検討したが,変化のパターンは両着生位置とも同様であった.このような結果から,発育粒中の内生ABA含量は,品種,粒着生位置を問わず粒の発育,シンク活性の制御に何らかの役割を果たしていることが強く示唆された.また,内生ABA含量の最大値は,粒当たり含量では大粒品種の方が高くなったが生体重当たり含量では両品種に差は認められなかった.一次枝梗上粒と二次枝梗上粒の間でも内生ABA含量の最大値についての差はなかった.このような内生ABA含量と昨年度の実験でやはりシンク活性の制御に役割を果たすと考えられたSS活性,両者の遺伝変異,およびそれらと粒重増加速度や最終粒重の遺伝変異との関係を,イネ11品種を用いて検討した.出穂後15日目の粒における内生ABA含量とSS活性,および粒重増加速度,最終粒重を測定し品種間差異と相関をみたところ,粒当たりSS活性と粒当たりおよび生体重当たりABA含量に有意な品種間差異がみられた.またこれら形質のうち,粒重増加速度,最終粒重と有意な正の相関を示したのは粒当たりSS活性のみであったが,この相関は偏相関分析から増加速度と粒重の間の相関によって結果的に生じたと考えられた.従って,内生ABA含量もSS活性もシンク活性の遺伝変異の原因である可能性は低いことが推察された.
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