免疫電子顕微鏡技術を高等植物組織に応用するために、免疫反応を妨害するオスミウム酸固定を行わずに植物葉を固定・包埋する方法を検討した。その結果、組織をホルマリンで固定し、LRホワイト樹脂で包埋することにより、葉緑体微細構造を十分保存した状態で超薄切片を作製できることが明らかになった。 次に生化学専門の研究機関よりタバコのRuBPカルボキシラーゼに対する血清抗体を譲り受け、C_4植物であるトウモロコシおよびマツバボタンの光学顕微鏡用切片を作製し、抗体を処理した後、螢光色素FITCで標識した二次抗体を反応させて、葉組織内のRuBPカルボキシラーゼの分布を螢光顕微鏡で観察した。しかし当初は固定法、包埋法をいろいろ検討したにもかかわらず、維管束鞘葉緑体のみを特異的に染色することはできなかった。そこでウエスタンブロート法によって抗体の特異性を検討したところ、特異性は十分に高いが、高濃度の抗体を処理すると、他の酵素タンパクにも結合することが明らかになった。そこで電気泳動を用いて、抗体のうちRuBPカルボキシラーゼと特異的に結合する部位のみを取り出すことによって抗体を精製した。このようにして精製した抗体を用いることによって、パラフィン切片において維管束鞘葉緑体のみを特異的に染色することができた。 また、マツバボタンの葉組織から葉肉細胞と維管束鞘細胞由来のプロトプラストを分離し、それらを培養してカルスにまで増殖させる培養系を確立した。従って、それぞれの細胞が脱分化し、再分化してゆく過程における酵素タンパクの発現状態、を標識抗体を用いて追跡することができるようになった。
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