稲が原産地から次第に分布範囲を拡大してきた過程に於て、感光性の形質が大きな役割を演じてきたことは筆者によって明らかにされてきたことところであるが、未だに不鮮明な項目が残されており、これらを解明することによって感光性の本質を探り、今後の作物生態学的発展に資することを主な目的とした。 1.従来使用してきた実験材料(1961年〜1978年)にその後採集した系統、すなわち1981年(インドネシア、タイ)、1982年(フィジ-、ソロモン)、1984年(アイボリ-コースト、ナイゼリア、ケニア、タンザニア)、1985年(ケニア、マダガスカル、リベリア、セネガル、ガンビア)、1988年(マダガスカル、タンザニア)、を加え、栽培種2種と野生種3種から、地域、生態的条件、採集年代などを考慮して300系統を用いて前々年度及び前年度に引き続いて実験を行った。 2.感光性を支配する主な項目のうち、最も基本となるものとして、感光性と不感光性の種別判定を12時間明期と12時間暗期のサイクルをもって、播種後40日目を起点として28日間行った。この条件設定は、過去のデータから、それぞれの系統の形質が最も明確に得られることに基づくものである。前年度、本年度とも異常気象であったにも拘らず不動のものであった。その結果、用いられた材料は、非常に強い感光性形質を示す系統から全く感光性を示さない系統まで広い変異幅を示すことが判った。 3.感光性が比較的に強い系統の限界日長時間は、主として東南アジア及び東アジアの系統で得られた限界日長時間よりも、やゝ短い傾向が推定された。アフリカ東部産の系統は西部産に比較して、変異の大きいものが目立った。 4.本年度の実験で採用した40日苗から短日処理を行った場合に得られる日長反応から、苗令効果はやゝ長く、30日苗からの短日処理では不充分であること、及び短日処理累積効果の存在が確定された。 5.短日感応に必要とされる日数は、いずれの場合も、本実験で用いた25サイクルで充分であると思われた。 なお、20サイクルでも感応する系統が存在する予備的結果を得た。
|