シンビジウム生産の一番のネックとなっている高温による花飛び現象の発生機作を解明すべく、高温耐性変異体と耐性を有しない品種とを用いて研究を行い、以下の成果を得た。 まず、ルビーアイズ‘ゴールデンスター'のメリクローン変異体として発見された高温耐性変異体の耐性確認を通じて、耐性を有しない系統の混入が明らかとなった。これらの系統は耐性変異体との比較研究における有力な材料となることが期待された。反面、平成3年度に行った株分け繁殖の影響が平成5年度になっても消えず、花芽を着生した耐性変異体はわずかしかなかった。このため、耐性変異体を用いた当初の研究は縮小せざるを得なかったが、根端細胞の観察から、染色体数は2n=40で、耐性変異が染色体数の増減にはよらないことが示された。また、耐性変異体では花粉形成が異常になることも見いだされた。 一方、高温耐性を有しない品種のサザナミ‘ハルノウミ'では、花飛び現象を起こす高温で花蕾中のアブシジン酸含量が数倍高まることや、天然型アブシジン酸処理により花芽の生長が抑制され、花飛び現象も一部誘起されることが確認された。また、アブシジン酸の作用はジベレリン酸(GA_3)処理により打ち消された。さらに、ジベレリンの生合成を阻害するウニコナゾールで花芽を処理することにより花飛び現象が誘起された。この場合にはエチレン生成の促進も起こっており、GA_3処理だけではウニコナゾールの効果が打ち消されなかったが、GA_3とエチレン作用の阻害剤であるチオ硫酸銀(STS)との組合せ処理により完全に打ち消された。これらのことから、正常な花芽の発育にジベレリンが関与していることが示されるとともに、高温ではジベレリンが制限要因になってエチレン生成が高まり、花飛び現象が起こるという発生機作が支持された。
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