ニホンナシは強い配偶体型自家不和合性を示し、品種間の交配試験結果から一連(S_1〜S_7)の不和合複対立遺伝子が決定されている。既に報告されている数種植物の例から考えること、ニホンナシのS遺伝子に対応するタンパク質(S-タンパク質)がニホンナシ花柱に存在し、それらの遺伝子は極めて相同性の高いことが予想される。本研究は、これ迄に我々がS遺伝子産物の候補として検出した数種のタンパク質を利用して、ニホンナシのS遺伝子を同定しようとするものである。 まず本年度の研究として、ニホンナシ花柱から得たポリ(A)^十RNAを用いてcDNAライブラリーの作成を目的とした。ニホンナシ花柱からのRNA抽出は、ホットバッファー法により収量、純度共に良好な結果が得られた。収量は1〜1.5mg/gF.W.程度であり、280/260nmの比もほぼ0.5となり満足のゆくものであった。このRNAからオリゴ(dT)セルロースカラムによってポリ(A)^十RNAを得たところ、総RNAの2〜3%のポリ(A)^十RNA量となり、精製できたものと推察された。このポリ(A)^十RNAからcDNAを合成し(cDNA合成キッド;Pharmacia)、スパンカラムで精製した。しかし、3〜4μgのポリ(A)^十RNAから得られたcDNA量をサランラップ法で推定したところ、1.2μg〜0.08μgと品種によって差異が認められ、材料の調整やRNAの抽出・精製過程で改善すべき点があるものと思われる。次に合成されたcDNAとλgt10とのライゲーション(λgt10クローニングキッド;Stratagene)およびin vitroパッケージング(ギガパックIIゴールドパッケージングキット;Stratagene)を行い、ニホンナシ花柱に発現している遺伝子をもったファージ粒子を完成させた。更に、このファージを大腸菌(系統=C600、NM514)に感染させてcDNAライブラリーを作成した。現在、タイトレーションとマスタープレートの作成を行っている。
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