本年度は主として、江戸期、とくに文化文政・元禄期以降から明治期に出版された園芸書、造園書の所蔵状況の調査をおこなった。牧野植物園附属図書館等まだ未調査のところもあるが、図書館資料の収集調査は国立国会図書館および同館白井文庫、伊藤文庫、国立公文書館、東京都立中央図書館加賀文庫、豊島区立郷土資料館、京都府立総合資料館、京都大学附属図書館、大阪中之島図書館、名古屋鶴舞図書館、名古屋市市政資料館等においておこなった。目録のあるものについては現在も継続的に所蔵リストを作成している。調査資料が膨大なため、分析は途中段階であるが、「朝顔」関係の園芸書についてはある程度の成果を得た。 朝顔の園芸書の全盛期は文化文政期(9点)、幕末の嘉永・安政期(13点)それに明治10年代後半から明治末まで(25点)の3つの時期が考えられる。とくに明治期で注目すべきは朝顔の専門雑誌の出版である。園芸に関しては『日本園芸会雑誌』が最も早く明治22(1889)年に出版されている。朝顔については東京の〓久会という朝顔同好会が明治30(1897)年に『〓久会記事』を出したのが最初である。これは明治33(1900)年に『あさかほ〓久会雑誌』に改題している。これ以外にも『朝顔畫報』『朝顔の研究』『名古屋朝顔会雑誌』『東京朝顔研究会会報』『奇蕣会雑誌』『金城牽牛会画報』等の雑誌が発刊されている。もちろん限られたものではあるが、趣味人の同好会的なものから大衆的な広がりを見ることができる。園芸業者がカタログとして発刊したものもあった(『朝顔の研究』)。しかしながら朝顔に関していえばもともと嗜好が奇品の収集に傾いており、劣性遺伝の個体の繁殖の困難さから、朝顔園芸は衰退してゆく。都市化による栽培する土地の減少もその一因である。一方で、雑誌の発刊という情報の広がりは近世にはなかった園芸文化の近代化の一端をみせたと考えられる。
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