野生種の採集場所として大鹿村を選び、野生種の変異について、開花期の違い、花の大きさと形状、果皮色(青梨、赤梨)、成熟期、果肉細胞の形状、石細胞の量など観察した。比較対照とする栽培品種は二十世紀と愛宕を用いた。果実の大きさを構成する果肉細胞の大きさと数に関しては、栽培梨の方が細胞数は明らかに多いが、細胞の大きさに関しては必ずしもそうとはいえない。ただし、大果系の栽培梨は明らかに大きい。果実の大きさや品質で大きな変異を示した。今回の研究に用いられた栽培梨の品種は二十世紀と愛宕の2品種だけであったので、今後品種選択を慎重に行い適正な数の品種を用いて正確な比較が出来るようにしたいと考えている。また、野生梨についても細胞の大きさや数についての変異を適正な方法で調査したいと考えている。野生梨においてその果実の大きさと糖度に大きな変異があることは、野生梨から栽培梨が改良され作られていったこと示すものであると推測される。したがって、生産性が低いと考えられている野生梨から生産性の高い梨へとどのように遷移していったかを探究することは、栽培梨の生産効率の研究を進める上に置いてたいへん興味深いものである。 本研究の目的は、野生種の果実生産力(それは低いものと予測しているが)を栽培種のそれと比較研究することが、栽培種の果実生産効率を研究する上において何か示唆を与えるのではないかと期待するものである。この観点に立って考察すると、野生種のおかれている生育環境条件が、栽培種のそれと余りにもかけ離れているために、野生種が持っている形質を栽培種のそれと比較調査するには今回の方法は適当でないことが把握された。とくに今回の研究対象となっている果実生産力に関しては、野生種を栽培植物のように栽培すること、栽培条件下で栽培種と比較研究することの必要性が感じられた。
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