本研究では、病原ウイルスの純化が困難なために現在まで抗血清が作製されていない難純化ウイルスを対象として、まずウイルスゲノムに対応した複製型二本鎖RNAを抽出し、これを用いて病原ウイルスの遺伝子に対応したcDNAのクローニングを第一の目標としている。さらに、ウイルスの外被タンパク質に対応した塩基配列を決定し、大腸菌に融合タンパク質としてウイルス外被タンパク質を産生させ、抗血清を作製することを最終目的としている。平成4年度では、果樹ではカンキツトリステザウイルス(CTV)、イチゴではイチゴマルイドイエローエッジウイルス(SMYEV)を取り上げて実験を行い、以下のような知見が得られた。 1.CTVでは複製型二本鎖RNAからCTV-RNAのクローニングに成功した。得られたcDNAクローンのひとつは外被タンパク質を産生する能力をもっていた。その塩基配列を決定し、日本産CTVの外被タンパク質遺伝子と米国産のものが比較できた。以上の点から、複製型二本鎖RNAを用いた植物ウイルス遺伝子のクローニングが実用的技法であることが証明された。 2.さらに外被タンパク質遺伝子近傍のCTV-RNAの塩基配列を調べたところ、日本には未発生のbeet yellows closterovirusとCTVが近縁であることが明らかとなった。また外被タンパク質遺伝子と外被タンパク質類似遺伝子が重複している現象も見られた。 3.SMYEVは、いまだにウイルス粒子の形態すら未確認であるため、接木試験で接種した多数のイチゴから複製型二本鎖RNAを抽出して比較したところ、数種の電気泳動パターンが得られ、SMYEV感染イチゴといわれているものには、複数のウイルスが感染していることが明らかとなった。
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