本研究では、病原ウイルスの純化が困難なために現在まで抗血清が作製されていない難純化植物ウイルスを対象として、まずウイルスゲノムに対応した複製型二本鎖RNAをウイルス感染植物から抽出し、これを用いて病原ウイルスの遺伝子に対応したcDNAのクローニングを行うことを第一の目標としている。さらに、ウイルス遺伝子がコードするタンパク質に対応した塩基配列を決定し、大腸菌に融合タンパク質としてウイルスタンパク質を産生させ、それに対する抗血清を作製することを第二の目標としている。さらにこれらの成果を利用して、難純化ウイルスの検出・同定・系統判別を迅速に行えるようにすることを最終目標としている。果樹ではカンキツトリステザウイルス(CTV)、イチゴではイチゴマイルドイエローエッジウイルス(SMYEV)を取り上げて実験を行い、以下のような知見が得られた。 1.CTVでは複製型二本鎖RNAからCTV-RNAのクローニングに成功した。得られたcDNAクローンのひとつは外被タンパク質を大腸菌で産生する能力をもっており、その塩基配列を決定した。また塩基配列に基づいて作成したプライマーを用いて、PCR法により二本鎖RNA試料からCTV遺伝子が検出でき、さらにCTVの系統判別もできることが明らかとなった。 2.CTVの外被タンパク質遺伝子が重複したと考えられる外被タンパク質類似タンパク質を融合タンパク質として大腸菌で生産させることに成功し、これに対する抗血清も作製することができた。 3.SMYEVは、いまだにウイルス粒子の形態すら未確認であるため、接木試験で発病した多数のイチゴから複製型二本鎖RNAを抽出し、cDNAのクローニングに成功した。このcDNAの塩基配列を決定したところ、報告のある植物ウイルスの塩基配列とは一致しなかった。
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