1.既に得ていたTn5トランスポゾンタッギングによるカンキツかいよう病菌の病原性欠損変異株の解析ならびに、コスミドクローンの解析から、本病原細菌は二つの異なるhrp領域を持つことが明らかになった。即ち、比較的小さな領域(hrp1)と、25kbにも及ぶ複数のhrp遺伝子がクラスターを形成している領域(hrp2)である。2.hrp1は大腸菌のグルコスルトランスフェラーゼと相同性を示し、グルカン合成に関与していると考えられた。興味あることに、カンキツかいよう病菌のグルカンは根頭がんしゅ病菌や根瘤細菌のそれと同様環状グルカンであった。このことは、カンキツかいよう病菌においても、病原性発揮或いは過敏感反応誘導のためにはグルカンによって病原菌が植物細胞に吸着する必要があることを示唆している。3.hrp2はナス科植物青枯病菌のhrpクラスターと相同性を示す領域であった。この領域のサブクローンとして、病原性欠損変異株F8に病原性を回復させるものを得た。4.本領域のコスミドクローンに遺伝子融合用トランスポゾンを用いて挿入を行い、転写誘導条件を調べた結果、通常の培養条件下では誘導が見られず、植物体に侵入後誘導されると考えられた。5.こうした遺伝学的研究から病原菌と植物との極初期の相互反応が重要な意味を持つことが示唆されたので、この際生成されるフリーラジカルを化学発光としてとらえ、物質レベルの研究も行った。その結果、カンキツかいよう病菌が高分子、耐熱性ペプチドであるエリシターを生産すること、さらにこの作用を抑える低分子のサプレッサーを生産することを発見した。
|