オオムギ子葉鞘ーオオムギうどんこ病菌の系を用いて、本菌の水中における形態形成を詳細に検討し、以下の新たな知見を得た。すなわち、水中においては、空気中のそれと比較して、生存率にはほとんど差が認められなかった。この点は従来、本菌に対する冠水が少なからず影響を及ぼすとする報告と予盾するものである。従って、過去の報告と、実験上の相違点について、比較検討し、本菌の生存率に対する水の影響について調べた。その結果、過去に「生存率に影響あり」とする論文においては、冠水の後、再び水がない状態で培養していることが判明した。本実験系においても、同様の条件、すなわち、水中で培養した後に水を切り、空気中で再び培養する、という操作を行うと、生存率がかなり低くなるという結果を得た。したがって、本菌の生存率に影響を及ぼす原因は、冠水それ自身ではなく、冠水の後の乾燥という、急激な環境状態の変化であり、水中において連続的に培養を行う限りにおいては、本菌の生存になんら影響を及ぼさないことが明らかとなった。この点についての論文は、現在投稿中である。さらに、水中においては、空気中においてほぼ100% 認められる第一発芽管の形成率が低くなること、また、徒長する付着器発芽管の出現率が高くなることなどの事実が新たに判明した。前者については、これまで提唱されていた第一発芽管の役割、すなわち、空気中の湿度が低い場合に、宿主に侵入し水分を吸収する、とする仮定を支持するものであった。この機能から推定すると、水中においては第一発芽管がたとえ形成されたとしても、回りに水が多量に存在するが故に、宿主細胞に侵入する必要がないはずである。そこで水中において形成された第一発芽管を、走査型電子顕微鏡マニプレーターによって取り除き、侵入の有無を確認した。その結果、侵入は認められず、従来の仮説をさらに支持する結果を得た。これについても投稿予定である。
|