平成4年度の研究結果を踏まえて、平成5年度はオオムギ子葉鞘-エンドウうどんこ病菌の系を用いて、本菌の水中における形態形成を詳細に検討し、以下の新たな知見を得た。即ち、オオムギうどんこ病菌の場合と同様、水中においては、空気中のそれと比較して、生存率にほとんど差が認められなかった。以上より、冠水によってうどんこ病菌の生存が影響されないという現象は、オオムギうどんこ病菌に限ったことではなく、広くうどんこ病菌全般に当てはまる事象である可能性が強い。 本研究の最終的な目標はうどんこ病菌に対するin vitroにおける薬剤の試験系を確立することである。従来より、水が本菌の生存に影響するとされていたがために、本菌に対する病害防除薬剤の開発は、すべて圃場レベルでなされてきた。すなわちうどんこ病菌に感染した植物を用意し、その植物に薬剤を散布して、うどんこ病菌の病徴がどれほど抑制されるかについて調べるものである。この方法の問題点は、環境に対してどの様な影響をもたらすかについて全く未知の、しかも多数の薬剤種について、それぞれ個々に大量使用しなくてはならないこと、また、薬剤の効果が全体としては把握できても、病原菌の感染過程のどの段階に効果を示しているのかについては全くわからず、正確な薬量を決定することは困難であること、などである。その点、本申請者の研究によって明らかとなった現象、すなわち、「うどんこ病菌は冠水してもその生存率は全く影響されない」という事実によって、うどんこ病菌に対する薬剤検定が試験管内でもできることになった。それによって多種類の検体を、少量にて一度に多数検定でき、環境汚染を最小限に食い止めながら防除薬剤を開発することが可能になると思われる。
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