ハダニ類およびその捕食性天敵ケナガカブリダニの休眠性における変異について調べ、両者の相互作用系における休眠性の生態的・進化的意義を考察した。 1.ハダニ類の休眠性には種間、種内ともに変異が大きく、特にナミハダニで種内変異が顕著であった。ナミハダニの休眠性はポリジーン支配で、休眠発現に温度の影響が顕著であった。 2.ケナガカブリダニの休眠性も変異が大きく、休眠率には地理的クラインがあり、北日本の個体群は<18℃:9L15Dでほぼ100%の休眠率を示したが、沖縄の個体群では15℃でも休眠しない個体が多かった。一方、中緯度域の個体群の休眠発現は温度に強く依存し、温度が高くなるにつれて休眠率が減少した。 3.ケナガカブリダニのいくつかの個体群間において、休眠性の強さと増殖力の関係を調べた。休眠性の強い個体群では高温域で産卵数が多かったが低温域では有意に減少した。休眠性のきわめて弱い個体群では温度の影響が小さく、低温域でも高い増殖力が維持されていた。 4.中緯度域で同所的に発生するケナガカブリダニと餌種のハダニとの間で両者の休眠性の対応関係を調べた。ハダニ類には種間・種内ともに変異が大きかったのに対し、ケナガカブリダニの変異は小さく、両者には明確な対応関係が認められなかった。ケナガカブリダニの休眠性の選択圧にハダニのフェノロジーが関与している可能性は小さかった。 5.不安定なハダニ-カブリダニ相互システムでは、カブリダニが餌種のハダニの休眠特性に正確に対応した休眠性をもつよりも、種内に変異をもつことのほうが個体群の維持に有効であると考えられた。
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