研究概要 |
申請者らは氷核活性を有するカビをニカメイガ幼虫の消化管から単離するのに成功し、分生胞子の形態からFusarium sp.と同定した(Tsumukiet al.,1992)。氷核活性を有するフザリウムの発見は、申請者らが世界で初めてである。 平成4年度の科学研究費で下記の点を明らかにした。 1)氷核フザリウムの同定:フザリウムの外部形態からFusarium moniliforme Sheldon var.subglutinans Wollenweber et Reinkingと同定した。 2)昆虫の過冷却点に及ぼす氷核フザリウムの影響:無菌イネ芽生えで、無菌的に飼育されたニカメイガ幼虫の過冷却点は-20℃以下を示した。氷核フザリウムを、このニカメイガ幼虫に食べさせるか、体表に塗り付けるかすると、幼虫の過冷却点は-5℃に上昇した。この結果、冬期の気温が-5℃以下になる地方で、氷核フザリウムを冬期散布し、凍結を誘導することにより、凍結感受性を有する害虫の防除が可能と考えられる。 3)氷核活性物質の性質:培養瀘液を用いて、氷核フザリウムが生産する氷核活性物質の性質を明らかにした。プロテアーゼ、塩酸グアニジン、尿素処理で氷核活性が失活したことから、少なくとも活性部位は蛋白からなることが明らかになった。リパーゼ、SH修飾物質、レクチン、ホウ酸化合物を処理しても氷核活性は変化しなかった。これらの結果、氷核細菌と異なってフザリウムの氷核活性には脂質、糖、SH基は関係しないと考えられる。 4)氷核活性物質の精製:培養瀘液を限外瀘過(10KDa cut‐off)で濃縮した後、硫安沈澱画分を集め、イオン交換、ゲル瀘過等により部分精製した。これらの一連の操作により、氷核蛋白の比活性は1,000倍以上に上昇した。
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