研究概要 |
カイコの脳神経ペプチドホルモンである前胸腺刺激ホルモン(PTTH)の、脳-内分泌複合器官(脳-側心体-アラタ体:幼虫5令3日目摘出)による分泌に対する神経伝達物質の効果を検討し、特に、アセチルコリン(Ach)とセロトニン(Sero)がPTTHの分泌を顕著に促進することを見出した。このAchによる分泌は、Ach-agonistであるムスカリンによって特異的に促進され、ムスカリン性-antagonistであるAtropineにより抑制された。また、GTP-binding protein(G-protein),Phosphol ipase C,Protein kinase C及びカルモデュリンに対する特異的な各阻害剤によっても抑制されることが認められた。これらの実験結果から、Achにより誘導されるPTTH分泌に、ムスカリン性-Ach受容体→G-protein→Phosphol ipase C→Protein kinase C及びカルモデュリン依存性キナーゼの関与する細胞内情報伝達系が介在しているこが推定された。一方、Sero及びその主要代謝物質であるMelatonin,5-Hdroxyindole acetic acid,5-Metoxytryptopholeのうち、Sero以外は、PTTH分泌促進効果を示さなかったが、Seroに特異的なPTTH分泌促進は、上述のAtropineによって抑制されることを見出した。また、脳内のSero量は、体液中へのPTTH分泌が増大する時期と一致して増加することが認められた。これらの結果から、Seroは、脳内でAchの放出を刺激することによって、間接的にPTTHの分泌を調節していることが明らかになった。 また、野蚕(サクサン)蛹の光周依存性休眠覚醒において、血中エクダイソン量の上昇に先立ち、脳内ドーバミン及びエピネフリンの量が一時的に増大することから、前胸腺によるエクダイソン分泌を上位支配するPTTHの分泌にカテコールアミンが関与していることが推定された。
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