高等植物の必須元素は16種類あるとされている。ホウ素は今世紀はじめにその必須性が明らかにされたがその作用機作は未だに明らかにされていない。本研究では、我々が確立したジニトロナフタレンジオール(DNNDO)を用いる微量定量法と、器官分化していない培養細胞を用いることで、新しい視点での高等植物のホウ素栄養研究を試みた。 タバコ培養細胞BY-2は無傷植物と同様ホウ素が必須で、培地からホウ素を除くことにより6時間以内に原形質分離が生じ細胞分裂速度の減少が顕著になり24時間以内に枯死した。培地中のホウ素濃度と細胞の増殖速度の関係をみたところ、最大増殖速度の半分を与える培地ホウ素濃度は0.056ppmであった。また細胞に含まれるホウ素は乾燥重あたり2.26ppmであったが、その98.7%が細胞壁に存在していることがわかった。基本培地中のホウ素濃度は1ppmであるが、この濃度を除々に低下させそれに馴化した細胞を選抜することで最終的に培地ホウ素濃度0.001ppmでも増殖出来る細胞を選抜した。ホウ素など必須元素の欠乏耐性株が単離されたという報告は今までにはない。急速凍結法による電子顕微鏡観察によると、選抜細胞では対照細胞と比較して細胞壁が膨潤し、より多くのゴルジ小胞が観察された。以上の結果からホウ素は細胞壁の代謝に関与することで必須性を発揮していると推察した。 現在、タバコ培養細胞とダイコン根細胞壁からホウ素を含有する細胞壁断片の精製を行っている。
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