1)イネを材料に使用することで計画したが、精製上の困難があり、テッポウユリを主な材料とすることにした。 2)イネ、およびユリのミトコンドリアF_1-ATPaseを精製した。イネおよびユリとも同じ5種類のサブユニットから構成されていることが判明した。ユリの精製酵素を用いてF_1-ATPaseに対する抗体を調製した。またユリからF_0F_1-ATPaseを電気泳動的に均一に精製することに成功したが、そのサブユニット構成の解明が残されている。 3)F_0F_1-ATPaseの精製中に、植物の部位によってSMP(亜ミトコンドリア粒子)のF_0F_1-ATPase活性が異なることを見いだした。ユリで詳細に検討し、花粉で活性が高く、球根で低いことなどF_0F_1-ATPase活性に器官特異性があることをはじめて見いだした。 4)SMPのF_0F_1-ATPase活性の器官特異性は、F_0部とF_1部をそれぞれ調製し、再構成する方法で検討した。その結果器官特異的な活性はF_0部に起因すること、およびF_0が存在する膜のリン脂質の脂質組成も器官によって異なることを明らかにした。また器官特異的活性発現に関連すると思われるF_0F_1-ATPaseのインヒビターを単離することができた。このインヒビターは分子サイズが約16kDで活性の低い球根のSMPに多く存在した。器官特異的酵素活性を決めていると思われるこれら膜脂質の差やインヒビターの存在などを明らかにすることによって、植物F_0F_1-ATPaseの分子形態の特徴を探る新しい手がかりを与えることができた。 5)イネ培養細胞を用いて、栄養ストレスがSMPのF_0F_1-ATPaseに与える影響を検討したところ、亜鉛欠乏とマンガン欠乏でF_0F_1-ATPase活性が著しく低下した。この原因としてF_0F_1-ATPaseそのものの酵素活性の低下とミトコンドリアの膜構造の破壊などが考えられるが、今後解決すべき課題である。
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